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<スピンオフ> 第1章 安西航 11

last update Last Updated: 2025-07-16 20:09:59

 11月15日午前10時――

この日の沖縄は快晴で、雲一つない空が広がっていた。

航は那覇空港の2階にあるウェルカムホールで琢磨が来るのを待っていた。

暇つぶしにスマホのアプリゲームをしていると、不意に右肩を背後からわしづかみにされた。

「おわっ!」

航は驚いて顔を上げると、そこにはニヤリと笑みを浮かべた琢磨が立っていた。ジーンズに白いTシャツにデニムのジャケット姿とラフな服装の琢磨に、航は抗議した。

「おい! いきなり何するんだよ! 心臓が止まるかと思っただろ!」

しかし琢磨は航の抗議の言葉を意も介さずに言った。

「まぁ、固いこと言うなって……こうして久しぶりに会うって言うのに……ん? 何だよ?」

航があまりにもジロジロ見つめるので琢磨は首を捻った。

「琢磨……お前、痩せたなぁ……。それほど朱莉のことがショックだったのか?」

「う……うるさい! お前だって人のこと言えるのか? ……って航は健康そうだな。身体も随分日焼けしてるし、もうすっかり沖縄県民だな」

「ああ、そうだな。かれこれ沖縄に来て1カ月以上過ぎてるし……。よし、それじゃまずはお前の荷物を取りに行くんだろう?」

航は椅子から立ち上った――

****

「しっかし……わざわざ名護市のホテルを予約するとは思わなかったな。てっきり那覇市にホテルを予約したかと思っていたよ」

航は助手席に座り、沖縄の景色に見入っている琢磨に声をかけた。

「何言ってるんだ? 当り前だろう? お前が今名護市に住んでるのに、何で那覇市のホテルに泊まるんだよ。おい、今夜は一晩中酒に付き合ってもらうからな? やけ酒だ」

「ん? ああ……そうだな。何せ今日は朱莉の……」

航はそこまで言うと、口を閉ざした。琢磨も今日が何の日か良く分かっていたので、車内はすっかりお通夜のような雰囲気になってしまった。

「「なあ……」」

その時、同時に2人の声がハモった。

「な、何だよ……琢磨」

「いや、それは俺の台詞だろう? 航……今お前、何言おうとしたんだよ?」

「う……そ、それじゃあ聞くけど……琢磨。お前、朱莉に……告白したのか?」

「……した」

琢磨は声のトーンを落とした。

「マジ!? したのかよ……いつ、どこでだ?」

「朱莉さんからメールを貰ったその日の夜だ。六本木ヒルズ51Fにある和食ダイニングバーで……」

するとそれを聞いた航はヒュ~ッと口笛を吹いた
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